2年前の早春。結婚式の2ヶ月前。
あやは実家を出て、初めて部屋探しをすることになった。場所は知らない土地、神奈川県。
マニュアルには3ヶ月前には決めましょうとあるのに、
だんなちゃんは突然の仕事で、ほぼ1ヵ月がつぶれてしまった。
そのときを逃すと、だんなちゃんはまた、1ヵ月間、仕事から離れられない。
慌てて決めた部屋。家賃は理想的。
しかし、いかにせん1LDK(不動産屋さんは2Kとか言っていたが)は狭過ぎた。
家具が入らない。で、結局契約まじかでキャンセル。
決めたのはそのとき一緒に見せてもらった2DKの家。
家賃は最初に決めたところよりは若干高め、すぐ近くを電車が通るけど
駅から歩いてすぐ。スーパーも、商店も、銀行も、郵便局も、役所も
みんな歩いて10分以内にあるような好条件。あまりにもの便利さで出不精の私もお出かけ三昧。
なんて良い場所に引っ越したんだと思っていた。
あることに気がつくまでは…
ある夏の日。
『カビ生えない?』ともう一つの棟の同じ条件の部屋に住んでいる娘が聞いてきた。
『もう、カビがひどいから、すぐにでも引っ越したいんだよね』
゛カビ?"気にしたことがなかった。部屋に戻って箪笥をあけてみると
スーツもワンピースも、ヴィトンのバックも、ハンティングもとにかくなんでもカビだらけだった。
『うぎゃぎゃぎゃぎゃ』
それだけではなかった。家の梁のところとか、窓の周りとか、
それから掃除してもすぐに汚れる台所の床も、どうやらみんなカビらしい。
『あちゃぁぁぁぁぁ』
カビはとにかく家のそこら中に容赦なく生えていた。
あやはその後の2年近い日々をカビとの戦いに費やすことになる。
それと同時に、『カビの生えない家に引っ越す』という新たなる目標ができた。
そしてその気持ちは戦友が新居を構え脱出をしたことによりより強くなった。
が、叶えられるチャンスはなかなか訪れないと思われていた。