野菜コーナーに梅が並ぶと、マダムはしばらく、前に立ち止まり考えるようになる。
けど、それが500円以下で、さらに398とか、298とか、
しかも粒が大きくて青々とし、きれいなぷりっとした実なら、
その迷いは、どこへやら。わしっとつかんで、レジに直行。
梅酒をつけるのは、作業としてどってことがないんだけど、
マダムは、ホワイトリカーや果実用のブランデーではなく、35度以上の米焼酎、あるいは泡盛でつける。
これが、マダムの迷いの種。
まず、このお酒がなかなか見つからない。しかも、ちょいと高いんだわ。
でもねぇ、これが漬けあがる1年後(ともう少しかかる)には
ホワイトリカーとは、比べ物にならないのができるから、漬けるとなれば、
覚悟が決まったってことなのだろう。
去年は、覚悟が決まらず、マダムは簡単そうで、お酒が要らない、
梅エキスなんて作っちゃおうと思った。
しかし、作ったことがある人、あるいは、マダムの性格をご存知なら、
これが、単純ではあるが、めんどっちい作業だってことが想像つくであろう。
まず、青く硬い実から、種をとるのが面倒。
しかも、酸が強いからとかいって、使う道具にも神経をつかう。
その後は煮詰めるだけだけど、これがさらに面倒。
なんせ、1キロの梅がほんの一握りにもならないぐらいなのだ。
しかも、おいしいと云う代物でもない。
ってなわけで、今年は素直に梅酒をつけることに。ってなわけで、球磨焼酎をデパートに買いに行く。
そういえば…
マダムは大量に買い物をしていた。
そして、同じ店で同じように焼酎を手に入れる。
1升は結構重いので、送ってもらおうかと考えたが、梅の実のことを考えれば、
はやく漬けたほうがいいし、送料が300円ときた。
ってなわけで「くれぐれも地面に呑ませないでくださいね」という店員の言葉に見送られ、
マダムは注意深く、運ぶことを選んだ。そう、注意深く、注意深く。
しかし、マダムのひとつのことに集中するという貴重な性格は、
階段を登るということに集中したとき、
カシャン
と軽く、ちょっと楽しげな音と共に、につかわしくない悲劇を生み出した。
階段の段差を超えられなかった瓶から、なんだか急に自由を得たように、
液体がトクトクと袋に流れ出す。
でも、そこはマダム、
意地でも逃がさないように、袋を重ね、家に持って帰って漬けていたが。
あれから2年、
100円均一の誘惑を振り切り、瓶を我が子のように抱え、家に直行するマダムの姿。
「意地でも道路に、お酒をのませるもんか!」
少し、成長したマダムの横を、さわやかな風が通り過ぎていた。